【夢のような近未来技術】フルダイブとVRについて解説

【夢のような近未来技術】フルダイブとVRについて解説

世界中で研究が進められているフルダイブ技術を紹介します。

VRというと、一般的にはヘッドマウントディスプレイ(HMD)を装着して、コントローラーで腕や足などの動きを仮想空間に反映する、という仕組みが知られています。

ですが、今後VR技術が進化するにつれて、現在のVRとは比べ物にならない程のリアルなVR体験が可能になると言われており、そのようなVR体験は「フルダイブ」と呼ばれています。

現在のVRは、HMDを通して視覚と聴覚、またコントローラーの振動で触覚を再現できるレベルですが、これらに加えて、味覚や触覚、嗅覚などの五感すべてを仮想空間に反映する技術の研究・開発が行われています。

一説では2030年代に実現すると言われているフルダイブ技術は、果たして本当に実現するのでしょうか?今回はフルダイブ技術の概略と、それを実現するための様々な取り組みについてお伝えします。

そもそもフルダイブ技術とはなにか。VRとの関連性について解説

フルダイブのVR体験がどんなものかを具体的にイメージする際、好例として挙げられるのが、アニメ化もされた人気ライトノベル「ソードアート・オンライン」です。

同作品では、登場人物たちは「ナーブギア」というデバイスを装着して、身体を睡眠状態にして意識ごと仮想空間に没入するという技術が描かれています。

いわば機械を使って、明晰夢のように夢の内容を自在にコントロールしている訳ですが、これによってユーザーは夢=仮想空間の中で五感をフルに感じることができます。

このように、ユーザーの意識そのものを何らかの手段で仮想空間内の動きと一体化させる状態が、フルダイブのVR体験が目指している状態で、いわば「究極のVR体験」と言えるでしょう。

こんな技術が本当に実現するの?と思ってしまいますが、現在では脳波を読み取ってVRコンテンツを操作できる技術が一般公開されるなど、VR技術は徐々にですがフルダイブへと近づきつつあります。

フルダイブ技術を研究している企業、大学について解説

フルダイブのVR体験を実現する際に必要になる要素は、大きく分けて3つあります。

1つ目は「出力」で、これは脳から出力される信号を何らかの形で読み取って、仮想空間内に反映させる技術です。

2つ目は「入力」で、仮想空間内で感じる様々な感覚、例えば視覚、聴覚、触覚、痛覚、嗅覚、また自分の身体の動きを認識する固有感覚など、現実世界で感じる感覚と同じものを、仮想空間内に反映する必要があります。

また、仮想空間での動きがそのまま現実世界の動きに反映されると、例えば仮想空間で走るとすぐに部屋の壁にぶつかってしまうため、仮想空間内の動きと現実空間の動きとの関係性を「調節」する必要もあります。

現在、特殊な手袋型のデバイスをはめて触覚を再現したり、VR体験に併せて香りを生成するデバイスや、味覚を電気刺激で疑似的に再現するなどして、五感を再現するVR技術の研究が行われています。

このような取り組みは日本を含む各国の企業・大学が行っており、代表的な例を幾つか挙げてみましょう。

名誉教授が率いる東京大学で研究、開発しているフルダイブについて

五感を仮想空間に反映する研究は日本でも行われており、既に10年以上もの長い歴史を持つ研究分野です。

代表的な例が東京大学で、同大学では圧覚、低周波振動覚、高周波振動覚、皮膚伸び覚、冷覚、温覚、痛覚という7つの触覚を、遠隔地にあるロボットと一体化してユーザーが感じるための技術研究が行われています。

触覚が人間に与える影響に基づいて、上記の様々な感覚を人為的に再現しようとする技術概念は「触原色原理」と呼ばれており、この概念に基づいて、ロボットの身体にまるで憑依したかのように操作できる技術「テレイグジスタンス」として知られています。

テレイグジスタンスは「遠隔操作感」などと訳されますが、これは遠隔地にある様々なものを、まるで実際に目の前にあるかのように触ったり、操作できる技術を指すもので、日本のVR研究者の第一人者である舘暲(たち すすむ)教授によって、1980年に提唱されました。

同氏らのチームは2017年にテレイグジスタンス技術の研究・開発を行う企業「Telexistence株式会社」を設立しており、VRやクラウド、触覚などを通じて遠隔操作ができるロボット「MODEL H」を開発しています。

MODEL Hは量産型ロボットの試作品として開発され、ユーザーはロボットの身体を、まるで自分のそれであるかのような感覚で操作できます。

テレイグジスタンス技術が実用化されれば、例えば医師が遠隔地にいる患者の手術をロボットの身体を通して行ったり、人間の立ち入れない危険な場所での作業がより行いやすくなります。

アメリカ企業たちが進めているフルダイブ研究について

また、フルダイブ技術は海外でも研究・開発が行われており、例を幾つかご紹介します。

より直感的にVR操作ができる技術を研究しているのが、米国のスタートアップのNeurableです。

同社は専用の電極を用いて、ユーザーの脳波を読み取ってVRを操作する技術を開発しており、このように脳波でコンピューター操作をする技術は一般的に「BCI(Brain Computer Interface)」「BMI(Brain Machine Interface)」と呼ばれています。

Neurableのシステムでは、HTC Viveに7つの電極を取り付けた専用の装置を装着して、これで脳波を読み取ることで、ユーザーは考えるだけでVR操作を行うことが出来ます。

実際、同社は脳波のみでプレイできるアーケードゲームを開発しており、2018年には開発者向けのキットを一般向けに既に公開しています。

また、これより更に未来的な技術として、現在米軍が研究を行っている「脳にコンピューターを直接接続する」技術が挙げられます。

脳とコンピューターを直接接続するというと、まるでサイバーパンク作品「攻殻機動隊」に登場する「義体化」を思わせますが、この技術はDARPA(国防高等研究計画局、米国防総省の技術研究機関)が70億円もの資金を通して、人間の脳に埋め込むコンピューターチップの開発を行っています。

この計画はNESD(Neural Engineering System Design)という名称で、おもな活用方法として、例えば兵士の脳にチップを埋め込むことで、無線機などのデバイスを使わずに意思疎通できるなど、まるでテレパシーのような能力を獲得することが可能になるでしょう。

このような技術は当然、倫理的にも大きな反響を巻き起こしそうですが、本技術を民間利用することで、例えば視覚や発話に障碍を持つ人や、様々な症状を改善するなどのポジティブな利用も考えられます。

フルダイブ技術が実現可能になるのはいつか、今後の未来について

意識ごと仮想空間に没入するフルダイブ技術を考えると、HMDとコントローラーのみを使う現在のVR技術は、極めて原始的なもののように思えます。

ですが、現時点から見れば相当にぶっ飛んだ技術であるフルダイブのVR技術が実現するとすれば、それはいつ頃なのでしょうか?

実は、VR技術の進化を予見する重要な予測があり、これは発明家にして実業家、またグーグルでAI(人工知能)の開発指揮を執るレイ・カーツワイル氏によってもたらされたものです。

同氏は、コンピューターの知性が人類のそれを凌駕する「シンギュラリティ(技術的特異点)」を提唱した人物であり、ご存知の方も多いと思います。

カーツワイル氏は著書「Singularity is Near(邦題:シンギュラリティは近い)」において、VR技術の進化をいくつかの年代に分けて予測しています。

同書は2005年に出版されたものですが、その中で2010年代には網膜に映像を直接表示するVRゴーグルの登場を予測しており、これは現在のスマートグラスにおいて既に実装されている技術であり、予測を的中させています。

また2020年代には、VRは現実とほぼ見分けのつかないレベルに達し、フルダイブ技術は2030年代には実現するとも述べています。

上記で述べたような、ナノマシンを脳に挿入して、デバイスを一切身に着けなくても仮想空間に没入する技術もこのころに実現し、2040年代には日常生活で行う殆どの事を仮想世界で体験できるようになり、多くの人が大半の時間を仮想世界で過ごすようになると言います。

そして2045年にはシンギュラリティが訪れ、人類の知性すべてを結集しても、その当時の1,000ドルのコンピューター1台にすら敵わないほど、テクノロジーが発達した時代が訪れると予測しています。

まるで空想小説のようなお話ですが、昨今AI(人工知能)プログラムがプロの囲碁棋士を打ち破るなどコンピューター技術の進化は急速に進んでおり、単なる絵空事として片付けられない真実味があるのは確かです。

もし実現すれば、私たちのライフスタイルを丸ごと変えてしまいかねないフルダイブ技術、今後どのように研究・開発が進んでいくのか、目が離せない分野の一つです。

まとめ:近未来のフルダイブ技術とVRの関連性について

人間の意識を丸ごと仮想空間に没入させるフルダイブ技術は、現在のVRの常識を丸ごと塗り替えてしまいそうです。

現時点から見ると、まるでSFの空想上の技術のように思えますが、既に各国の大学・企業や、国防総省などの国家機関が開発に取り組んでいるため、実現の可能性があるのは確かです。

ゆくゆくは、人間の生活スタイルを一新してしまいかねないフルダイブ技術は、VRの未来を考えるにあたって極めて重要な技術です。